今回紹介するキットはファインモールドの1/72スケール 航空自衛隊 F-4EJ 戦闘機です。
F-4EJ ファントムⅡについて
F-4ファントムⅡはアメリカのマクダネルダグラスが製造したジェット戦闘機です。
1960年に運用開始以来、5,000機以上が生産されたベストセラー機としても知られています。生産国のアメリカでは1990年代に全機種が退役しましたが、採用諸国では2020年現在でも運用が続いている傑作機です。
1966年、日本の航空自衛隊はそれまでの主力戦闘機であるロッキード/三菱 F-104Jと、その先代の主力戦闘機でありながら装備され続けていたノースアメリカン F-86の2種類の戦闘機の後継/代替機を導入する計画を立ち上げます。次期主力戦闘機導入計画。通称、第二次F-Xです。
1967年時点では9機種存在した候補は1968年までに絞られることになります。F-104Jの発展型であるロッキード CL1010-2、ダッソー ミラージュF1、そして日本向けに改修を施したマクダネルダグラス F-4Eの3機種でした。
CL1010-2は選考時点で実機が存在しないことが、ミラージュF1は導入経験のない欧州製の機体であることが懸念されました。結果、最有力候補であったF-4Eが採用され、日本向けの改修を施された機体としてF-4EJを導入する運びとなりました。
日本向けの改修として対地攻撃能力や空中給油能力が除去されていることが大きな特徴です。これは、当時の専守防衛思想と周辺国への配慮という観点から取られた措置であり、あくまで自国の領空侵犯に対処するための要撃専用の機体とする必要があったためです。この対地攻撃能力の不足を補うため、航空自衛隊では後に支援戦闘機 F-1を導入することになります。
また、F-4Eに装備されていたレーダー警戒装置(AN/APR-36/-37)はライセンス生産が認められなかったため、国産のJ/APR-2が開発、装備されることになりました。
そのほかの特徴として、他国のF-4Eと異なり、前縁スラットが省略されています。前縁スラットとは、主翼の一部を前方に動かすことで揚力を発生させる装置です。これを取り除くことでスクランブル発進時の加速力を高めており、要撃機ならではの仕様と言えます。
1980年になるとF-4EJの機体寿命の延長と能力向上を図るために改装が施されることになります。この改装により対地/対艦攻撃能力の付与や電子機器類の更新が施された機体はF-4EJ改と呼称されました。改装を施されないF-4EJは1990年代に入ると退役が始まり、2018年にはEJ改も順次退役が始まりました。
キットについて
このキットはファインモールドより、2020年10月に3,900円で発売されたキットです。ボックスはイラストではなく実機写真です。
ファインモールドは日本の模型メーカーで、第二次世界大戦時の日本軍の戦車や航空機に注力しているメーカーで、ジェット戦闘機はこのF-4EJ以前にF-14を発売したのみでした。
そんなファインモールドから現用機の発売アナウンスというのはちょっと珍しいなとは思いはありました。個人的には考証をしっかりされているメーカーという印象だったので不安よりは期待や楽しみの方が強く、アナウンスを知った直後に予約しました。
ディテールはとても繊細です。コクピットパネルはディテールの有るものと無いものが用意されており、パネルをデカールで再現するか、塗装で再現するか選ぶことができます。
モールドはやや浅めなので、ケガキ針やエッチングソーなどで彫りなおした方がスミ入れなどが行いやすいです。
デカールは複数のコーションがセクションごとにまとめられており、貼り付け作業が苦行にならないよう配慮されている印象があります。
総評
素晴らしいキットです。これまでフジミ、ハセガワの新旧キットを組んできましたが、個人的にはこれが一番ユーザーフレンドリーな印象でした(最新のキットなので当然かもしれませんが…)。パーツの合いがとても良く、カッチリと組み上がる感覚は気持ちよかったです。
ハセガワの新版キットも悪くないのですが、足周りと尾翼の強度に不安を感じることがあります。ギアやギアベーンの接着は若干癖がありますが、ファインモールドのファントムは強度面も考えられており、足周り、尾翼ともに接着面が広く設けられており、対策がなされているように思えます。
やや気になるのがモールドの浅さ。
製作時に彫りなおせば問題はないのですが、今後このキットのバリエーションモデルが展開されるということは、金型を何度も使用することになると思います。金型の疲労からモールドがより浅くなってしまうのではないかと少しだけ不安ですね。
近年の海外製キットは豊富な武装のほかにエッチングパーツが標準で付属していたり、内部構造を作りこんでいたりとキットに対する情報量を追求していることに対し、このキットはその気になれば手早く完成まで持っていけるような量産のしやすさを重視しており、メーカーによってアプローチが違うことが新鮮でした。