【キットレビュー】Academy 1/72 A-10A サンダーボルトⅡ

今回はアカデミーより発売されている1/72スケールのA-10を紹介します。

過去に同じスケールのタミヤ/イタレリ、ハセガワのキットを作ったことがあるため、当時の記憶や説明書を見ながら比較していきたいと思います。

A-10A サンダーボルトⅡとは

アメリカ空軍に採用されている近接航空支援(味方地上部隊の援護)に特化した攻撃機です。通称はサンダーボルトⅡまたはウォートホグ(Warthog、イボイノシシの意)。

第二次世界大戦以降、航空機は「敵より早く核攻撃を仕掛けること(=先制核攻撃)」をコンセプトに開発が進んでいきました。この結果、近接航空支援任務の重要性は下がっていきました。

こうした中で発生したベトナム戦争では、第一線を退いたF-100スーパーセイバーを近接航空支援に充てましたが、もともとは先に挙げた先制核攻撃のコンセプトで開発された機体のため、対地攻撃には向かない機体でした。機体速度が速いため敵地にとどまることが難しく、支援任務には適さないことから本格的な近接航空支援機を開発することになりました。

その結果、1970年代にフェアチャイルド社によって開発された航空機がA-10です。

機首には専用開発のGAU-8/A 30mmガトリング砲が備え付けられているほか、コクピットは周囲をチタンでバスタブのように覆われており、耐弾性が高められております。

2基のターボファンエンジンは胴体に背負うことで異物の侵入を防ぎ、荒れた滑走路でも運用できるほか地上からの攻撃に対して翼や胴体が盾となり、被弾を抑える役割を果たしています。真横に伸びた直線は低速での運動性が高く、大量の兵装を積載することができます。また本機は飛行中でもランディングギアは機体内部に完全に格納されません。これは、機体トラブルによりギアが降りなくなっても胴体着陸できるよう考慮されているためです。

このように徹底的に近接支援能力(対地攻撃能力や低速機動性、生存能力など)を高めた結果、特徴的なスタイルとなりました。この機体の頑丈さは多くの逸話を残しています。

基本設計が古く、近接航空支援という限定的な条件でないと能力を発揮することができないため、運用の取りやめを幾度となく検討されましたが、その度に湾岸戦争やイラク戦争で高い稼働率で優れた実績を残してきました。

日本においても多くの漫画やゲームで扱われているため、高い知名度を持っています。

その昔、タイトーが発売していたPS2専用ソフト「エナジーエアフォース Aim Strike!」でも本機を使用することはできました。

このゲームはミッションの遂行にあたり、現実同様にウェイポイントと呼ばれる地点を定時内に飛行する必要があるのですが、A-10は速度が遅いため、時刻通りにウェイポイントを到達することが難しかったのを覚えています…。

キットについて

ここからはアカデミーより発売されたキットについて見ていきましょう。パッケージの横には”Copyright 2018~”の記載があるので発売は2018年でしょうか。あるいは再販時期かもしれません。

まずはランナーの構成ですが、これはハセガワのものを大きく意識していると言わざるを得ません。微妙にランナー内でパーツの配置が左右入れ替わってたりしますが、概ね同じですね。

しかし、細かい点に違いが見られます。例えばコクピットのグレアシールドの取り付けです。

パーツの点数を抑えたかったのでしょうか、左右分割の胴体部のパーツにまとめられています。機首部分の分割が複雑でメーターパネルの接着を後付けにしたいのですが、構造上できなくなっています。

また、ハセガワのキットのJランナーに相当する部品(燃料タンク、フレアポッド、選択式のガトリング砲機首部)が丸ごとありません。そのため、このキットには燃料タンクはありませんし、ガトリング砲は非選択式、主翼下のフレアポッドはデカールで表現するのですが、サイズが合っていない印象を受けます。

パーツの分割はハセガワと同じですが、タミヤ/イタレリも大きく異なるわけではありません。機首の組み立て方は似通っていますし、胴体部やエンジンの分割や組付けに関してはどのメーカーも同様のパーツ構成です。成型上、これが最適解なのかもしれませんね。

ただ後発のキットなので欲を言えば、これまでのA-10のキットの足りない部分を補ってほしかったというのはあります。

例えばエンジン。どのキットもタービンブレードと前部ナセル、スピナーが一体ですが、タービンブレード以外は機体色で塗装するためマスキングが必要になります。入り組んだ形をしており、完成後も目立つのでここの分割が考慮されていたら嬉しかったです。

ほかに気になった点はキャノピーのクリアパーツです。透明度は良好ですが、ガラス部分とフレームの境界がありません。マスキングの際にガイドとなるものがないため、とても神経を使いました。

ここまでネガティブな面を述べてきましたが、このキットにも良い部分はあります。モールドが凹線であることです。

ハセガワは以前よりA-10Aを発売していましたが、古いキットのためモールドは凸線、金型の疲労を感じさせる歪みやバリなどが嫌気されていました。そうした中、2014年にこれまで長く定番商品として扱っていたA-10Aを絶版とし、A-10Cの発売をアナウンスしました。しかし完全な新規金型ではなく一部の新規パーツの追加だったため、多くのユーザーが肩を落とす結果になりました。

アカデミーは元々金型を持っていなかった分、こういったところに手が回りやすかったのだと思います。金型が新しい分、モールドはキレイです。エンジンナセルや胴体上部を除き、彫り直しはそれほど必要ではありません。

デカールに関してはやや破れやすそうな印象がありますが、問題なく貼り付けることができました。

パイロンに貼り付けるデカール(No.41)が左右とも同じなのは考証的に正しいのか少し気になります。

武装は未確認ですが、形状から見てMk.82×12発、AGM-65 マーベリック×6発、GBU-10 ペイブウェイⅡ×2発が付属します。ただし、この武器類の出来があまりよくありません。特にMk.82は弾頭部の形状がダルく、押しピンの跡などがハセガワより顕著に出るため、気になる人は修正をするか別のキットから用意した方がいいでしょう。

なお、AGM-65 マーベリックは3発搭載できるランチャー(LAU-88)が2基付属しますが、信頼性の問題から湾岸戦争の頃にはあまり使用されなくなっています。ただし、A-10は赤外線カメラを搭載していなかったため、当時は夜間任務時に使用し、3発のマーベリックのうち1発をカメラ代わりに搭載しています。本キットには”Operation Iraqi Freedom”の記載がありますが、イラク戦争時はほぼ使用されていません。

今回の組み立てにあたり、武装は画像検索の結果を参考にしました。爆弾やミサイルなどの吊るしものの類はジャンクより流用しています。

ハセガワのA-10よりMk.82を6発。身元不明のAIM-9とAGM-65 マーベリックを2発。MK.20ロックアイはおそらくハセガワのF-15Eのものでしょう。AN/ALQ-184 ECMポッドはハセガワのエアクラフトウェポンⅦのものです。AIM-9とマーベリックに関してはタミヤ/イタレリのA-10より別途パイロンを流用しました。

説明書には塗装指示によると本体の色はライトゴーストグレイ、ダークゴーストグレイ、ガンシップグレイとありますが、ダークゴーストグレイとガンシップグレイのカラーコードが同じものが記載されています。ハセガワのA-10Cの説明書に従ってGSIクレオスのMr.カラー307,308,305番を使用しました。

総評

あくまで私の主観ですが、3社の評価をまとめますと以下のようになります。

(オススメ度の☆は5つが最高点です。)

ハセガワ(A-10C)

凸モールド/ロービジ迷彩

設計が古いため、組み合わせが良くない箇所がある。

価格:2000円(絶版となったE9のA-10Aは1500円)

オススメ度:☆☆

タミヤ/イタレリ

凹モールド/チャコールリザード迷彩

豊富な武器類と組みやすさから現状、1/72スケールのA-10ではベストキット。

ほかの2キットと異なり、主翼フラップの昇降が選択可能。

価格:1500円

オススメ度:☆☆☆☆

アカデミー

凹モールド/ロービジ迷彩

ハセガワキットの凹モールド版だが、ところどころマイナスポイントあり。

モールドはキレイな反面、武器類の出来はイマイチ。

価格:1400円(TamTamにて購入。輸入品のため変動あり)

オススメ度:☆☆☆

もともと灰色を基調としたロービジ迷彩のA-10が作りたかったのですが、ハセガワは凸モールド、タミヤ/イタレリはチャコールリザード迷彩で社外品のデカールのあてがないという状態の中で本キットを見つけたため購入しました。

先述の通り、ところどころに厄介なポイントがあるため、まったくの初心者という方にはお勧めできませんが、作り込みの甘さをカバーできれば手ごろな値段の良いキットだと思います。ハセガワのA-10Cとニコイチにするのも面白そうですね。