【キットレビュー】アオシマ 1/700 日本駆逐艦 涼月

今回ご紹介するキットはアオシマの1/700スケールキット 日本駆逐艦 涼月(すずつき)です。

涼月は秋月型防空駆逐艦の3番艦として建造されました。この艦級はいずれも月に因んだ名称がつけられています。

秋月型防空駆逐艦とは

秋月型防空駆逐艦は日本海軍が建造した最初で最後の防空駆逐艦です。

第一次世界大戦以降、航空機は兵器として有用であることと同時に脅威にもなることが認識され、各国の軍艦は対空防御のために対空機銃や高角砲を装備するようになりました。1935年(昭和10年)に英国海軍が旧式化しつつあった軽巡洋艦を改装し高角砲を10基備え付けたことが防空艦のはじまりです。

日本海軍も同様に旧式となった軽巡洋艦に防空能力を強化する案は検討されましたが、水雷戦隊の編成を優先していたことと、費用対効果の観点から疑問視された結果、見送られました。その後、1939年(昭和14年)に海軍軍備充実計画の中で大和型戦艦や航空戦隊の艦隊防空を担う目的で防空艦を6隻建造することになりました。

船体中央部の黄色枠が魚雷の発射管

当初、防空任務という性質から直掩艦という新しい艦種となる予定でしたが、艦隊戦を考慮し魚雷を装備したことで駆逐艦(乙型)の艦種が割り当てられ、建造されたのが秋月型になります。

涼月について

涼月は秋月型防空型駆逐艦の3番艦で1942年(昭和17年)12月29日に三菱長崎造船所で竣工しました。第10戦隊第61駆逐隊に編入後、主に輸送任務や護衛任務に就きました。

1944年(昭和19年)1月に豊後水道で敵潜水艦の魚雷を2本受け艦首を失う損害を受けるも、沈没を免れ、呉に帰港し改修を受けています。この際に艦首と艦橋を新造していますが、当初の丸みを帯びたものではなく、直線的な形状をしていることが外見上の大きな特徴となっています。

その後、10月に大分から台湾の基隆への輸送を命ぜられます(当時、台湾沖航空戦の最中だったため涼月の幹部は抗議をしたものの、却下されています)。そして宮崎県の都井岬沖を航行中に敵潜水艦より再度魚雷を受け、艦首を喪失するも呉への生還を果たしています。

1945年(昭和20年)4月には沖縄海上特攻作戦に参加し、戦艦大和の直営にあたることになります。この作戦で涼月は敵艦載機からの攻撃で被弾大破するも自力で佐世保へ帰港しています。被弾により艦首が沈下しており、前進すると船体が潜るため、佐世保へは後進して向かいました。佐世保帰港時に後進から前進へ切り替えたことで浸水が進み、係留中に着座しました。

その後、佐世保の相の浦湾に防空砲台として係留され、終戦時まで残存。戦後は姉妹艦の冬月とともに福岡県若松港の防波堤になりました。涼月は戦争中に3度の被害に遭いましたが、いずれも生還したことから不沈艦とも呼ばれました。

涼月の名前はその後、同じく防空任務を担う護衛艦である、あきづき型の3番艦へ引き継がれることになりました。

キットについて

アオシマより1,000円で発売されているキットです。艦橋や艦首が丸みを帯びているので就役当初の形状を再現しているようです。

艦船模型を製作した経験があまりなかったため、比較的安価な駆逐艦から着手しようと思い物色したところ、駆逐艦の中でも砲塔や機銃が豊富で見栄えが良さそうだったため購入しました。

箱の大きさからおおよその想像はつくと思いますが、1/700スケールの駆逐艦は細く、小さいです(涼月は駆逐艦の中では大型な部類らしいのですが)。ちょっと太めの多色ボールペンと遜色ない大きさです。駆逐艦の購入はこれが初めてだったため、開封時は正直驚きました。

キットの出来はヒケは船体の前半部分に見受けられますが、他は気にならないかと思います。対空機銃や魚雷のモールドがしっかりしており、あまり詳しくはありませんが、パーツの精度は良いほうだと思います。組み立てに際して難儀したことはありませんでした。

製作にあたり、GSIクレオスのMr.カラー特色セット「日本海軍工廠標準色」を同時に購入したためこれを使用しました。

旧日本海軍艦艇の艦体色は建造あるいは修理、改装された工廠によって色調が異なるためこれを再現したもののようです。

この商品では呉、佐世保、舞鶴の工廠色を再現できるようになっており、同梱されていない横須賀の工廠色についてはMr.カラーの32番 軍艦色(2)を使用するよう記載があります。

涼月は佐世保工廠の標準色を使用しましたが、佐世保で使用されていた塗料は白の顔料である白亜鉛粉の含有量が他の工廠に比べて少ないため、やや濃い色調だったようです。この濃い色調の上にウォッシングをした結果、より暗い色になってしまいました。

艦船模型のディテールアップの定番と言えば、空中線の再現です。空中線とは各種無線や信号の送受信のためにマストなどから吊り橋のように張られているアンテナのことで、張り線とも呼ばれたりします。

空中線の再現方法はいくつかありますが、モデルカステンより発売されている「メタルリギング 0.1号」を使用しました。とは言え、自信もなく資料なども揃えていなかったため、どこへどのように張ればいいのかわからず、申し訳程度の追加となってしまいました。

総評

パーツの精度は良好でストレスなく組むことができました。

見た目や迫力では戦艦や巡洋艦、航空母艦には一歩譲りますが、その分完成までの道のりは短く、機銃や煙突の組み立てや設置など艦船模型のセオリーを知るにはいいキットだと思います。

自分のように初めて艦船模型を作るという方にもおすすめできるキットだと思います。