【キットレビュー】タミヤ 1/700 空母いぶき

今回紹介するのはタミヤの1/700スケールキット DDV192 空母いぶきです。いぶきはかわぐちかいじ氏の漫画『空母いぶき』に登場する架空の航空機搭載型護衛艦(DDV)です。

漫画『空母いぶき』について

2014年12月から2019年12月まで小学館『ビッグコミック』誌に掲載された漫画です。著者のかわぐちかいじ氏は『沈黙の艦隊』、『ジパング』など海軍や海上自衛隊を題材にした戦記モノに定評のある人物です。

じわじわと事が進んでいく序盤に対し、終盤は目まぐるしい展開でした。兵器の性能、運用面や現実世界とのギャップを指摘する声もありますが、昨今のセンシティブな時事問題に踏み込んだ面白い作品だと思います。決断を強いられる政府関係者と自衛隊、それぞれの立場に置かれた日本国民の日常や心理描写にはリアリティを感じました。

あらすじ

20XX年、漁民になりすました中国の工作員が日本の尖閣諸島の南小島に上陸したことから両国間で緊張感が高まり、船舶の衝突事件の発生や護衛艦が威嚇射撃を受けるなど事態がエスカレートすることになります。

こうした中国側の行動に危機感を覚えた日本政府はペガソス計画を発動し、新型護衛艦の開発とこの護衛艦を旗艦に新護衛隊群の創設することになり、この翌年に自衛隊初の(事実上の)空母、いぶきが就役することになりました。

いぶきが演習航海中に中国軍は突如、曙光工程(シュクァンコンチョン)を発動し日本への侵攻を開始し、先島諸島や尖閣諸島を制圧します。この事態を受け、日本政府は史上初となる防衛出動を下令し、いぶきが最前線へ向かうところから物語が動き始めます。

この作品の主人公である秋津竜太(あきつ りょうた)は航空自衛隊出身の英才。海上自衛隊へ転属後、最年少で一佐に昇進後、いぶきの初代艦長を務めることになります。空母艦長はパイロット出身というアメリカ海軍の伝統に倣った妥当な人選でありますが、自身の所属する第5護衛隊群をアジア最強としたいと考えており、彼の発言や思想からは強気な姿勢が垣間見られ、適性を問題視する声も挙がります。

もう一人の主人公である副艦長兼航海長・新波歳也(にいなみ としや)は秋津とは対照的に専守防衛、人命第一を是としている思考の持ち主です。いぶきが決断を迫られる際に二人の意見は対立するものの、新波も秋津の才能は評価しており、ストーリーが進むにつれ信頼関係が醸成されていく様が描かれております。

この両名以外にも作中には多くの登場人物が登場しますが、各個人の信条や思想にも個性があり、こうした人物描写もこの作品の魅力といえます。

DDV192 空母いぶきについて

いぶきは20XX年、日本近海での領土・主権問題を巡って周辺諸国との緊張感が高まっていく中、抑止力となるべく空母艦隊の旗艦として開発された護衛艦で海上自衛隊が操艦を担い、航空自衛隊が航空管制を担う史上初の共同運用艦になります。

開発にあたっては航空機の運用能力と部隊指揮の中枢を担えるよう設計されており、いずも型をベースとして甲板にスキージャンプ式の発射台が設置されていることが大きな特徴です。

搭載機はF-35JB、短距離離陸/垂直着陸(STOVL)が可能なステルス戦闘機であるF-35Bの日本仕様という設定です。航続距離の短い本機を対潜戦闘用途に搭載することで侵略攻撃型空母ではなく、対潜水上艦の護衛艦であることが認められて建造に至ったという背景があります。

甲板はF-35JBの垂直着陸時の排気熱に耐えられるよう耐熱補強が施されているほか、戦闘機を運用するための航空燃料のタンクや航空団の業務・居住スペースが新設されています。

兵装はファランクス Mk-15 20mmCIWSが2基、近接防空ミサイルSeaRAMが2基、対艦ミサイル防御用チャフロケット発射機、対魚雷用の自走式デコイと投射型静止式ジャマーと自艦防御に特化した内容です。これはC4Iシステムによって防空機能を僚艦に委ねているため、兵装は現実の空母同様最小限とされています。

キットについて

このキットはタミヤより2018年5月に発売されました。価格は税抜きで3,900円でした。

船体は一体成型でサイドエレベーターなど奥行きのある個所は別パーツで再現されていて部品分割も丁寧な印象です。

甲板は艦載機を発進させる際に展開するブラストディフレクターや中央のエレベーターがせり上がっている様子を再現させることができます。

艦載機はSTOVL戦闘機のF-35JBが10機、哨戒ヘリコプターSH-60が4機付属しています。F-35JBは駐機状態と2種類のリフトファンを展開した状態が再現できます。SH-60はローターの展開/格納状態をそれぞれ再現できます。

作業車輌は艦載救難作業車(白)と牽引車(黄)の2種類が4台ずつ付属しているほか、アクセサリとしてヘリコプター牽引装置も4台用意されています。

新鋭艦という設定のため甲板の汚しは軽めにしています。F-35JBは着艦時にノズルを下方へ向け垂直着陸を行うため、着艦位置にはジェット噴射による汚れをタミヤのウェザリングマスターで再現してみました。

航走波について

今回は製作にあたって波のベースを用意し、航海中のいぶきを再現してみました。

ディスプレイケースはホビーベースのプレミアムパーツコレクション モデルカバー(超横長)です。ベースカバーがマリンブルークリアになっていますが、某イベントで先行販売されていたものを入手した次第です。高さが少々余計だったので適当にカットしています。

ベース全体が青いもののうっすらと透けているため、アクリラガッシュの青色(ウルトラマリンブルー、プルシャンブルー)で塗りました。

波はKATOのウォーターエフェクトを使用しました。ウォーターエフェクトは鉄道模型のジオラマ製作で河川や波の表現に使用される定番アイテムです。

ベース全体にウォーターエフェクトを塗布後、板やヘラなどで表面全体を叩いた後、航行中のいずもの写真を参考に筆で波を形作りました。波頭にはアクリラガッシュのミスティブルーを適宜塗っています。

波の表現方法については別の機会に詳しく紹介したいと思います。

総評

とても組みやすいキットでした。全長およそ35cmと大柄なキットですが、細部もしっかりと再現されている点も好印象です。

艦載機や作業車などのアクセサリー類も豊富で作り応えも十分あり、楽しく製作を進めることができました。

空母本体が完成した後だとアクセサリー類の製作にとりかかるまで腰が重くなりがちなので、隙間時間に少しずつ手を付けておくと良いかもしれません。

日本政府は2018年12月にいずも型護衛艦を空母化することを閣議決定し、2020年に1番艦いずもの空母化改修工事が開始されたことが報道されました。改修後のいずもといぶきで差異を見比べてみるのも面白そうですね。現実世界における日本の空母運用がどういったものになるかについても興味深いです。