【キットレビュー】HGUC ガンダムF91

OVA『機動戦士ガンダムF91』について

模型とは関係のない話のため蛇足かもしれませんが、OVA作品についても簡単に解説したいと思います。

本作の注目してほしいポイントを3つにまとめてみました。

Fに込められた意味

劇場公開時のキャッチコピーは「目覚めよ宇宙。” ガンダム “新時代-第一章」「ガンダムは、新たなる宇宙へ…」といった幕開けを意識した内容のものになりました。
このキャッチコピーが示す通り、本作品はこれまで構築してきた世界観を刷新しようという取り組みが随所に組み込まれています。

前作のOVA『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』はガンダムシリーズの一つのターニングポイントでした。子供の頃に初代ガンダムを見た世代がアムロとシャアの決着を見届けたことで心に区切りがついたのか、ガンダム作品から距離を置く人が少なからずいました。『機動戦士ガンダム』の放映は1979年、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の公開が1988年なので大体10年です。進学、就職などの環境の変化に応じて子供のころから好きだったものに一区切りつけるには丁度良い機会と捉えた人も多くいたのではないでしょうか。

製作サイドは存続のため、新しい世界観と人物によって新しいガンダムシリーズを立ち上げたいという思惑がありました。このF91には従来とは異なる新しい「基準(=Formula)」を作るという意味合いが込められているのです。

脚本に富野由悠季氏、キャラクターデザインに安彦良和氏、メカデザインに大河原邦夫氏が起用されており、これは初代ガンダムの製作スタッフと同様の布陣であり、再挑戦に対する本気度が見て取れます。

「ニュータイプ」から「家族」へ

これまではアムロとシャア、すなわちニュータイプがガンダムのテーマでしたが、F91の新しいテーマはより身近なものとすべく家族の問題を取り上げ、主人公のシーブックもヒロインのセシリーも、それぞれ家族関係に関する描写が描かれています。

両家族の大きな違いは分かり合えたか否かにあります。

シーブックの母、モニカは仕事に打ち込むあまり、家庭を顧みませんでしたが、夫は最期まで理解を示していましたし、シーブックもリィズも物語の中盤で打ち解け、互いに助け合う姿が描かれています。最終局面でセシリーを見失い動揺していたシーブックに指針を示したモニカはバイオ・コンピューターの開発者としてだけではなく、一人の母親としても接していたように見えます。

一方、ロナ家はどうでしょうか。もともとセシリーはロナ家という貴族の家系でしたが、セシリーの母、ナディアは貴族主義を嫌って家を出奔しています。物語の途中でセシリーや夫の鉄仮面ことカロッゾとも再会をしますが、この時に家族間の溝が消えることはありませんでした。

劇中でも親子や家庭に関するセリフが度々登場しますので、この点に注目してみるとまた変わった角度から見ることができるかもしれません。

人に近い機械と機械に近い人

F91の特徴の一つにフェイスカバーの展開があります。整備中のF91を見てスペースアークの総舵手、マヌエラは「口がついてる」と表現していますが、何も顔の造形だけが人に近いということではありません。

搭載しているバイオ・コンピューターは搭乗者の思考を機体の挙動に反映させることができます。また、物語の終盤でセシリーを見失った際にF91はセンサーの知覚レベルを人間に合わせることができるマシンであるとモニカは述べたうえで、シーブックにセシリーを「感じろ」と伝えていることから、これまでのMSに比べ、人に近い機械と言えるでしょう。

F91とは対照的に機械に近い存在となった人物が鉄仮面ことカロッゾ・ロナです。顔全体を覆う仮面を被り表情が見えないことに加え、強化人間手術を施しているため劇中でも常人ならざる雰囲気を醸し出しています。

演説中に頭部への狙撃を受けても銃弾を跳ね返したのは仮面のおかげかもしれませんが、宇宙空間へ飛び出してセシリーの搭乗するビギナ・ギナのコクピットハッチを引きはがすなど人間とは思えない動きを見せています。

この対比を表現したのが、エンディングに登場するF91と鉄仮面の顔が半分ずつ融合しているイラストです。なお、鉄仮面の駆る大型モビルアーマー、ラフレシアとの戦闘でフェイスカバーを展開した際の放熱が「機械」側のメタファーである鉄仮面に唾を吐きかけている図式と聞いたことがありますが、定かではありません。

まとめ

このOVAはもともとTVシリーズで放映予定の12話をまとめたもののため、場面の転換が急な部分がありますので、前後のセリフで状況を理解する必要が出てきますが、上記3つのポイントに注目することはそれほど難しくはないと思います。
戦闘シーンに着目しがちですが、こういった観点から見てみると違った楽しみ方ができるかもしれません。未視聴の方はもちろんのこと、遠い昔に視聴して戦闘シーンしか覚えていないという方も上記の点を軸に見返してみてほしい作品です。

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